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第2話「企画業務型裁量労働制 あらましと運用上のポイント」

投稿日:2002年07月16日

▼裁量労働制とは
仕事の仕方や方法、その仕事に要する時間配分などのついて使用者が労働者に対して細かく指示をするのではなく、労働者自身にその仕事についての時間配分も方法も任せるというものです。

裁量労働制には次の2つがあります。

◆専門業務型裁量労働制
1.     裁量労働に関して労使協定を締結・届け出
2.     業務の性質上、その遂行の方法を大幅に労働者にゆだねる必要があるとして労働大臣が定める11業務
3.     労使協定で定めた時間を労働した時間とみなします

◆企画業務型裁量労働制
1.     対象事業所において労使委員会を設置
2.     対象業務を行う対象労働者を選任
3.     労使委員会において7つの事項を決議し、所轄労働基準監督署へ届出る
4.     労使委員会の結語で決められた時間を労働したものとみなします

▼みなし労働時間とは
労使協定若しくは労使委員会において、その業務に通常必要とされる時間を定めた場合は、各日の労働時間はその協定若しくは決議で定めた時間労働したものとみなすという時間です。

★例えば、決議において『1日の労働時間を9時間とみなす』と、定めた場合は、実際の労働時間が1日7時間であっても又は10時間であっても9時間を働いたものとするという時間です。

▼専門業務型裁量労働制
1.     採用要件:労使協定の締結
2.     対象事業場:特定なし
3.     対象業務
業務の性質上、その遂行の方法を大幅に労働者にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、具体的な指示をすることが困難なものとして、命令で定める11の業務
(1)新商品または新技術の研究開発等の業務
(2)情報処理システムの分析または設計の業務
(3)記事の取材または編集の業務
(4)デザイナーの業務
(5)プロデューサーまたはディレクターの業務
(6)労働大臣の指定する業務
・コピーライターの業務
・公認会計士の業務
・弁護士の業務
・一級建築士の業務
・不動産鑑定士の業務
・弁理士の業務
4.     対象労働者:対象業務を遂行する労働者・特に制限はありません。
5.     協定事項
(1)     対象業務の特定
(2)     業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、業務に従事する労働者に対して指示をしないこと
(3)     労働時間の算定は労使協定での定めによる
(4)     みなし労働時間

▼企画業務型裁量労働制

企画業務型裁量労働制の対象となる事業場において、労使委員会を設置し、所轄労働基準監督署長に届け出ます。

労使委員会において、対象業務など7つの事項を委員全員の合意により決議し、所轄労働基準監督署長に届け出ます。

就業規則に企画業務型裁量労働制を定めることについて、労働者の意見を聴いて、就業規則に導入を規定します。
その就業規則を所轄労働基準監督署長に届け出を行い労働者に周知します。

企画業務型裁量労働制に従事する対象労働者ごとに、労使委員会で決議した条件で労働することの同意を得て、対象労働者を対象業務に従事させます。

対象労働者が労働した時間は、労使委員会で決議した時間(みなし労働時間)を労働したものとみなすことができます。

▼企画業務型裁量労働制 運用上のポイント

1.対象事業場とは
事業の運営に大きな影響を及ぼす重要な決定が行われる事業場のみをいいます。

(1)本社・本店である事業場
(2)1以外の事業場においては、事業等の運営に大きな影響を及ぼす決定を行う権限が与えられている事業本部や支社等など本社、本店に準ずるもの
★事業本部・・・     企業が取り扱う主要な商品・サービスの取扱の関しての事業計画の権限を有している
★地域の本社・支社・・・     事業活動の対象となる地域における生産、販売等についての事業計画の決定権を有している

2.対象業務とは
以下の4つの事項の全てが必要です。

(1)事業の運営に関することについての業務
(2)企画、立案、調査及び分析の業務であること
(3)その業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が労働者に具体的な指示を行わない業務
(4)業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要のある業務

3.対象労働者とは
対象労働者の範囲は、対象業務を適切に遂行するために必要となる具体的な知識、経験等を有することが必要です。

(1)例えば新規卒業者のように職務経験のない者は対象となりません。大学を卒業して3年から5年の職務経験要となります。
(2)対象労働者として特定するためには、業務に必要な職務経験年数、職能資格等の具体的な基準を明確にすることが必要です。

4.労使委員会の目的は
★対象事業場において、賃金、労働時間その他の労働条件に関する事項を調査・審議し、事業主に対して意見を述べることです。
★企画業務型裁量労働制は労使委員会の設置が採用要件として定められました。委員会は設置を定められた様式(様式第13号の1)によって所轄労働基準監督署長へ届出なければなりません。

5.労使委員会の決議事項は
7つの事項を決議し、所轄労働基準監督署長に届け出を行うことが、この制度を行うためには必要です。

(1)対象業務
(2)対象労働者となることができる労働者の範囲
(3)みなし労働時間
(4)対象労働者の健康・福祉の確保に関する使用者の措置
(5)対象労働者からの苦情の処理に関して講ずる使用者の措置
(6)対象労働者の同意の確認及び同意拒否に関して不利益取扱の禁止事項
(7)決議の有効期間と記録の保存

6.労使委員会の委員数は
注1)労使委員会の委員数は、設置をする前の話し合いにおいて労使双方が任意に定めればよいとされています。
注2)労使各1人計2名で構成すると定めるのは労使協定の締結と変わらないことから認められません。
注3)少なくとも使用者代表委員及び労働者代表委員各1名計2名以上とすることが必要です。

7.委員の指名の方法は
(1)管理又は監督の地位にある者以外の中から任期を決めて指名します。
(2)対象労働者及び対象労働者の上司を委員に含めて、意見を反映させることが望ましいとされています。
(3)委員の任期については、法令での定めはありませんが、労使委員会の決議の有効期限が1年と定められていますから、これに準ずるのが望ましいでしょう。
(4)投票は無記名で行います。

8.委員の信任は
(1)労使委員会の委員として過半数労働組合または過半数代表者からの指名をされた後、再度、職場の全労働者の過半数の信任を得ることが必要です。
(2)信任の方法は当分の間、投票の手続によって行います。
(3)投票する労働者は、労働基準法における労働者を対象とします。パートタイマー・休職者・休暇取得中の者などをを含んでいることに注意をしてください。

9.議事録の作成・保存・周知
(1)議事録は、労働委員会開催の都度作成し、その開催の日から起算して3年間の保存義務があります。
(2)議事録は次の方法等で労働者に周知しなければなりません。
注1.常時各事業場の見やすい場所へ掲示しまたは備え付けること
注2.労働者への書面での交付

10.決議の方法は
(1)労使委員会の決議は、委員全員の合意を必要としますが、欠席者がいるときは、出席者全員の合意でよいことになっています。(定足数の定めは必要です)
(2)委員全員の合意を署名または記名押印によって明らかにする必要があります。

11.労働時間の取扱は
★企画業務型裁量労働制は、決議で決めた時間を労働時間とみなします。ただし、休日労働や深夜労働などに関してはみなし労働時間は適用されませんから、深夜労働を行った場合はその時間分の割増賃金の支払い要件が発生します。
★みなし労働時間を1日について9時間と定めた場合は、法定労働時間の8時間を超える1時間については時間外割増賃金を支払わなればなりません。また36協定の届け出も必要です。

12.その他
企画業務型裁量労働制については、以上の11の要件の他にも、次のような対象労働者の保護に関する配慮等が盛り込まれています。
(1)対象事対象労働者の健康と福祉を確保するための措置
(2)対象労働者からの苦情の処理に関する措置

対象事業場において対象業務を行うエリートの労働者が対象となるのがこの企画業務型裁量労働制ですが、年次有給休暇の連続取得を与える等の細やかな配慮が使用者には求められています。この制度の適用には、労使双方ともにかなりのエネルギーを必要とすることでしょう。

▼制度の趣旨等
「自立した個人が主体的に仕事に向かい、そうした働き方を通じて自己実現を目指したり、創造的な能力が発揮できるよう、労働基準法による裁量労働制の的確かつ効果的な活用を進める」

「創造性豊かな人材がその能力を十分に発揮しうる主体的な働き方ができるよう条件整備を行う」

▼これからは
労働者には自立性と創造的な能力を発揮して主体的に仕事を行うこと、使用者には労働者の創造的能力の発揮できる職場環境の整備が求められていくでしょう。

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