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第35話「年次有給休暇ケーススタデイ」

投稿日:2002年07月16日

問1 年次有給休暇を取得手続なしで請求できるのでしょうか?

   当日の朝になってから急に請求する従業員など、申請手続を行わないで突然、請求する従業員に対しても年次有給休暇は与えなければならないのでしょうか。
事前に期日を指定して請求することを義務づけることは可能でしょうか?

>申請手続についての法定規定はない

    年次有給休暇を取得する際の手続についての労働基準法に定めはありません。
取得のための手続は、就業規則などの規定によることになります。
会社の決めた手続が複雑で、従業員の負担が過大となり、年次有給休暇の取得が抑制されているとみなされる場合には、法の趣旨に反し、違法とされることになります。
事前に時期を指定して義務づけることは可能ですが、手続違反のみを理由に拒否することはできません。

    >申請手続は判断基準とはならない

    申請手続が簡単であっても、従業員が突然に、年次有給休暇の取得を請求してきた場合には、まず、会社には従業員の指定した時季に取得させる義務があります。
この場合、会社にとって事業の正常な運営を妨げるのであれば、時季変更権の行使が許されています。
ただし、あくまで従業員の時季指定に対し、会社に認められているのは、「事業の正常な運営を妨げる場合」を条件とした時季変更権の行使だけであり、年次有給休暇の取得の請求を拒否する権利ではありません。
したがって、たとえ、就業規則などで義務づけている手続に違反していても、「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当しないときは、従業員の請求どおりに年次有給休暇を取得させる必要があります。
    注;従業員が手続に反して年次有給休暇の請求を行ったことにより、会社が時季変更権を行使するか否かを判断したり、実際に行使する時間的余裕がない場合には、事後に、事業の正常な運営を妨げる場合に当たるか否かを判断して、
当たる場合には時季変更権を行使することが認められています。
(此花電報電話局事件 昭57・3・18 最一小判)。

問2     当日の朝、突然の年次有給休暇取得申出は有効ですか?

    年次有給休暇は原則として一日を単位として与えます。

午前0時から24時までの24時間の1労働日を従業員からの請求があれば、使用者は年次有給休暇を請求された時期に与える義務があります。
(昭26・9・26基収第3964号、昭63・3・14 基発第150号)

 ところで、当日の朝に従業員から年次有給休暇の請求があった場合、これを与えなければならないのでしょうか。

    >発熱や事故などの場合

   急な発熱等で欠勤していた従業員から病気欠勤日を有給休暇に振り替えて欲しいとの届出が出されても、後日の年次有給休暇の請求は従業員の当然の権利としては認められていません。

発熱などのやむを得ない事由による病気欠勤日を従業員が有給休暇に振り替えたい場合、その休業した日数を有給休暇に振り替えることが就業規則等に規定があり、従業員が、その規定にもとづいて申請手続を行った場合には有給休暇の取得が認められます。

後日の有給休暇の取得は,従業員の権利ではなく就業規則等への規定もしくは使用者の承認が必要条件です。

就業規則等への規定がなくても、慣習であるなら、その慣習に従うことになります。

    >遅刻など自己都合事由による場合

    遅刻などの自己都合による理由で,始業時間直前になって有給休暇取得の申し出をしても従業員は有給休暇を当然の権利として取得することはできません。

労働基準法第39条において年次有給休暇は1労働日を単位とする付与を規定しています。
この1労働日とは午前0時から午後12時までの暦日24時間の意味です。

当日の朝になって突然に有給休暇の希望を申し出ても、その当日について24時間を単位とする1暦日を付与することができませんから使用者は拒否することが可能です。
つまり、有給休暇の事後承認については使用者の裁量に委ねられており、会社が事後申請を認める場合であれば,就業規則等での規定が必要です。

取得当日の請求については、すでに、その日が開始されていることから、事後請求とみなされる余地があり、一般的には、認めなくて差し支えないといえるでしょう。

    注:「年次有給休暇を請求する場合従業員はあらかじめ時季を指定し、これを使用者に通知することを必要とし、従業員において任意に遅刻その他の事情によリ就業にさしつかえた日を有給休暇に振り替えることはできないと解すべきであるが、 使用者において従業員の申出によリ遅刻その他の事情で就業にさしつかえた出勤日を年次有給休暇に振り替えた場合は、その出勤日は、あらかじめ決定されている休暇と同じく始業時刻当初から休暇となる。」

問3     従業員の請求に関係なく欠勤期間に充当できますか?

    病気欠勤中の従業員から年次有給休暇の時季指定がない場合であっても、使用者の裁量によって、年次有給休暇を欠勤期間に充当することはできるのでしょうか。
従業員が取得を希望しない場合は充当できません。年次有給休暇を取得する時季は、原則として、従業員のみが指定できるものです。

例外として、労使の合意により、年次有給休暇の取得時季を決定する計画的付与制度がありますが、この制度を実施するためには、過半数労働組合 (ない場合は従業員の過半数代表者)との書面による労使協定において、計画的付与による年次有給休暇の取得日などを決めておく必要があります。

計画的付与制度によらない場合には、年次有給休暇の取得時季は、従業員が指定した日となりますから、従業員から指定もないのに、会社が一方的に欠勤日に年次有給休暇を取得させることは許されません。

したがって、休職期間が開始されるまでの欠勤日については従業員から年次有給休暇の取得申請があった場合にだけ年次有給休暇を取得したものとして取扱います。
年次有給休暇の時季指定権は従業員の権利であり、使用者の裁量は認められません。

問4     未消化の代休取得を優先するよう命じることはできますか?

    未消化の代休が残っている従業員から年次有給休暇の取得の申し出がありました。
代休を先に取得するよう命じて、年次有給休暇の請求を拒否したいのですが?

    >未消化の代休が残っている従業員が、年次有給休暇の取得を請求してくる場合

    年次有給休暇の取得の請求が先になされたときは、会社が適法な時季変更権を行使しない限り(事業の正常な運営を妨げる場合に該当しない限り)、従業員が、その請求した日に年次有給休暇を取得することが決定します。

年次有給休暇の時季指定は従業員に権利があります。
従業員が請求した時季が事業の正常な運営を妨げると判断される場合は、会社には従業員から指定された時季を変更させる権利が発生します。

しかし、この場合のように未消化の代休があることは、時季変更権を行使する理由とはなり得ません。
なぜなら、代休でなら休んでもよいが、年次有給休暇で休まれては困るというのでは、結局のところ、その日に、その従業員が休んでも、事業の正常な運営は妨げられないことが明らかだからです。
したがって有給休暇の請求に対して代休取得を命ずることはできないことになります。

    >会社がある日に代休を消化することを命じた後に、従業員がその日に代休ではなく、年次有給休暇を取得したいと申し出てきた場合

    休暇とは、従業員が労働日について就労義務の免除を獲得した日をいいます。
休日とは、労働契約において、労働義務がないとされている日です。
つまり、会社が労働日と定めた日については、従業員は休暇を請求する事ができます。
休日とは、そもそも労働義務が発生しない日のことをいいますから、従業員は労働義務の生じない日に労働義務の免除の請求をする事はできません。
この場合も、会社が先に代休を従業員に付与した場合には、会社が代休消化を命じた時点で、その日の労働義務がなくなっていることになります。
従業員は、労働義務のない日に年次有給休暇を取得することはできませんから、会杜の代休命令が先に行われた場合には、その代休命令にかかる日については、年次有給休暇を取得する余地がないことになります。
したがって、この場合には、予定どおり代休消化として取り扱うことができます

    注:傷病によって休職している期間など休職中の従業員は年次有給休暇を請求する権利はありません。
ただし、従業員が休職をする前に締結した年次有給休暇の計画付与のメンバーに入っていた場合は、その従業員にも計画付与にもとづいて年次有給休暇が付与されることとなり、使用者には賃金規定等で定められた年次有給休暇に対する賃金の支払義務が発生することになります。

問5     年次有給休暇中の従業員に仕事をさせた場合は有給休暇となりますか?

    緊急やむを得ない事情が発生したため、年次有給休暇中の従業員に午後から出勤して仕事を担当してもらいました。
この場合、この日については、予定どおり年次有給休暇を取得したものとして取り扱って差し支えないでしょうか?

年次有給休暇を取得中の従業員が会社の求めに応じて、少しでも出勤した日は、年次有給休暇取得日として取り扱うことはできません。
年次有給休暇は、1日24時間の労働日単位で付与し、取得させることは問1で説明したとおりです。

この労働日については、暦日計算によることとされていますから、時間単位での有給付与は認められません。

したがって、例えば、年次有給休暇を取得している従業員を休暇中に呼び出して就労させた場合には、その労働時間がどれだけ短くても(たとえ1分であっても)、年次有給休暇を取得したものとして取り扱うことは認められません。 この場合には、従業員が会社の求めに応じて緊急に出勤した時点で、労使合意の下、その日の年次有給休暇の取得は取り消されたものとみなされることになります。 では、すでに休んでしまった時間については、どう取り扱うべきでしょうか。この点について特に示されたものはありませんが、年次有給休暇を取得している最中に、会社の都合で呼び出して緊急に勤務させたことにより結果的に不就労となってしまったわけですから、その 時間については、会社が負担して、その日は通常どおり出勤したものとして賃金を支払うべきでしょう。また、翌日から年次有給休暇を取得する予定の従業員が、残業をしたことにより、翌日の午前0時以降、若干勤務してしまったというケースも考えられます。このような 場合でも、翌日については年次有給休暇を取得したものとして取り扱う事ができなくなりますから、翌日に年次有給休暇を取得することが決まっている場合には、暦日をまたぐ残業をしないよう、十分な管理をする事が必要です。

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